過去をすべて消しても生きていけるだろうか?
私だけが知らなかった、私のもう一つの物語
幼い頃の記憶。火事に見舞われた小さな町で、亡くなった悲しみに犬を飼う人々。死んだ兄。森の中に隠れて暮らす女性。いなくなった父。母の秘密。夫のスクラップブックと、消えた女優。現在と過去が交錯し、思わぬ真実が立ち上がってくる。
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ソン・ボミの作品には「消える」人たち、特に女性たちが多く登場する。
私たちはみな日常の中で、自分の意志とは関係のない、外的な要因によって生活が180度豹変することが多々ある。そうやって日常が崩壊してしまったあとも、依然として人生は続いていく。私たちはどうやって生きていけばよいのだろう。これは訳者としての私の関心事でもあり、『小さな町』はそういう疑問から読み進めた。人間は自分の力ではどうすることもできない運命を背負ったとき、どのような力によって生きていくのか。それに対する答えが作品に示されているわけではない。
「私」はすべての真実が明らかになったとき、過去と向き合うことにした。それはもうこれ以上、「消える」ことを望まないという意味でもある。多くの女性たちが自ら選択したものの前であっけなく崩れていく中で。すべては運命だと受け止めた母は、後悔のない人生を送ったのだろうか。母が、そして消えた女性たちが、本当に守りたかったものは何だったのだろう。「私」はこれからどのような選択をして生きていくのだろうか。
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